三詠子さんの独り言

やっと秋らしくなった今日この頃です。
読書の秋という訳ではありませんが、英国の作家カズオ・イシグロの作品を読み漁っています。最初の出会いは「わたしを離さないで」でした。
1960年生まれのカズオ・イシグロは、5歳まで長崎で生活し、父親の仕事の関係で英国に渡り、英国で教育を受けた後、1982年に英国へ帰化した作家だという事を、本を読み終えて知りました。
英国作家として世界で活躍している彼は、当然英語で作品を書きます。日本では、彼の作品は日本語に翻訳されて出版されています。
英国人である彼に、日本人の両親に育てられた日本人としてのアイデンティティーはどこにあるのだろう・・・と興味があります。
先日本屋さんでカズオ・イシグロの作品「遠い山なみの光」を見つけ、ぱらぱらとめくっていたら「二キ」と言う名の登場人物が目に留まり、早速購入しました。
私が飼っている猫の名前が二キです。
14歳の黒猫で、媚を売らない可愛げがない猫ですが、私にとっては最愛の二キです。カズオ・イシグロが二キの名前を小説に登場させていることで、この作品に親近感を覚えました。
作品のなかの「二キ」は主人公の女性と英国人の夫の間に生まれた娘の名前です。
つい二キをダブらせて擬人化して読んでしまっている自分がとても可笑しかったです。
作品はカズオ・イシグロの生まれ故郷長崎と、英国の田舎町が舞台となっています。
主人公も長崎生まれの女性です。この作品を読み終え、カズオ・イシグロに対しての私の疑問が徐々に解けてきました。
この作品を読み進める内に、まるで小津安二郎の映画を見ているような錯覚を覚えてしまいました。
主人公の淡々とした日常から生み出される会話から、深い闇に包まれ、時と共に解放されていく様を丁寧に描いている作品の言葉まで。当然英文で書かれたはずの作品なのに、翻訳されたこの作品に深い感銘を受けました。(ニキの名前だけではありませんよ!)
是非読んで欲しい作品です。
現在は「日の名残り」を読んでいます。
この作品も面白いです。
読者の秋。
皆さんに読書をお薦めします。

三詠子さんの独り言

いよいよ秋の到来です。
さてさて今年のアジィの作品を皆様に気に入って頂けるか不安な毎日が始まります。
今年の2月3月の展示会での商品を見る中で、2012年の秋2013年の冬のアジィからの皆様へ提案を模索します。
私の展示会での服の選び方は、常にアジィの服に対しての基本的な考え方が根底にあります。
服は主役ではありません。
主役はアジィの服を楽しんで頂いている皆様です。
物語の主役である皆様の脇役として、お手伝いをさせて頂きたいと願ってセレクトしております。
さてさて半年かけて作られたこの子達に私の想いを詰めて、アジィの店頭に登場しますよ!
アジィをこよなく愛する皆様、今年の秋冬もアジィの服を楽しみつつ、素敵な物語の主人公になることを願っております。
人生は短いです。
あっと言う間に過ぎ去ります。
いつまでもいつまでも物語の主人公でいてくださいね。
アジィの服を脇役に人生を楽しんでください。
アジィの山口さんは2013年の春夏のセレクトを、休みを返上して仕事にいそしんでいる今日この頃です。

三詠子さんの独り言

パリへの旅は11回目になります。
何度行ってもパリは違う顔を持っていて、行くたびにパリの奥の深さに驚きと感動を覚えます。
今回の宿はサンジェルマン・デュプレの近郊のプチホテルにしました。ヴィクトル・デュリュイ高(公立高校)が近くにある為、下校時間に鉢合わせになると、たくさんの若者の集団に出くわしました。いろんな肌の色の若者たちが楽しげに歩いています。さすがに移民の多いパリです。

地下鉄からホテルまでの通りにはシネマのポスター店や古い東洋の建物の映画館などがありました。ポスター店に興味があり立ち寄ってみると、なんとこのお店は全部本物のアンティックシネマポスターが置いてあり、ハリウッド映画からフランス、イタリア映画等のポスターの目録がファイルされていて、そこから見たいポスターをお願いすると、おもむろに引き出しからだして見せてくれます。ものすごい量で圧巻でした。本物と出会えるパリをまたもや実感しました。

私はアジィファッションを楽しんで頂きたいと願って毎シーズンセレクトし、皆様に提案しています。しかしめげる事も多々あります。年に一度ですが、自分がファッションの仕事をしている事の誇りを取り戻すためにパリを訪れ、パリのエネルギーを吸収してアジィへ戻ってきます。私はファッションに対しての想いがあります。ファッションは必要品でも日常品でもない、贅沢品だと常々考えています。贅沢な本物をアジィのお客様に届けているかの確信を持ちたい為にパリを訪れます。ファッションはこの商品が何故欲しいか、なぜ必要なのかなどの理由を正当化する必要は無いと考えています。だからこそ美しいのです。頭で考えるものではなく、心で感じて欲してと願っています。

私はパリでたくさんの本物と出会う事で、私の感性が磨かれる事を願い、パリの街をさまよい続けています。私の感性によって、セレクトされた商品を皆様が楽しんでいただければ幸いであり、大きな喜びです。
今回のパリの旅も、とても沢山の本物に出会えて最高でした!

三詠子さんの独り言

今年は寒波のパリをさまよってきました。日中も氷点下のパリは初めてです。早朝にパリに到着したため、宿泊するホテルへ荷物を預け、ルーブル美術館へと向かいました。肌を差すように冷い空気が溢れているパリ。
ルーブル美術館への途中のコンコルド広場に観覧車が回っていました。寒波のパリで誰も観覧車に乗っていませんでした。つい私は観覧車からのパリを見たくなりだれも乗っていない観覧車へ乗ってしまいました。大きな観覧車に私一人かと思いきや・・・対面の観覧車席へ黄色いアノラックを着た白人のおばさまが一人乗っていました。観覧車から降りると、その人が私に「日本人?」と聞いてきました。彼女は、アメリカ・ニュージャージーから友人二人と、初めてパリへ観光に訪れたとの事。友人はブランド物を買いに出かけ、私は興味がないので散歩していたと話してくれましたきっと、寒波のパリで観覧車に乗るおのぼりさんがもう一人いたと言う親近感が嬉しかったんでしょうね。ランチに誘われてしまいました。断るのは失礼だと思い一緒にランチを楽しむ事にしました。
コンコルド広場の近くのブラッスリーに入りました。フランス語と英語のメニューを渡されたので、彼女に任せて同じ物を注文しました。そこで初めてパリ名物お皿いっぱいのステック・フリット(ステーキ)を食べました。美味しいかって?いや~~肉でした。
彼女の息子が3年前に福井県大野市で英語を教えに来日し、彼を訪ねて日本へ来日した事。京都・大阪・福井へ行った事。桜の季節に訪問して本当に日本は美しい国であり、大野の人々がとても親切で素晴らしい人たちだった事を懐かしく話してくれました。この方は日本を訪問するにあたって、地方の人達との交流を味わえた事はとても素敵な経験でしたね。
寒波のパリでこのような経験を味わって日本を知ったアメリカ人に会えた事は、これからの9日間パリ・ベルギーへの旅の始まりの、楽しい予感を感じました。
しかしアメリカ人はどんな所でもアノラックとコッパンなのです。ふと、フランス映画「パリ ジュデーム」を思い出しました。
(後日談ですが3月14日にニュージャージーの彼女から二人でブラッセリーの食事風景を撮った写真を添えて手紙が送られてきました。)

三詠子さんの独り言

ミラノを旅した時の出来事です。
ランチしようとレストランに入りました。
席に着くと、男性4人と女性3人の年齢は30代から50代の職場のお仲間といった雰囲気の人達が入ってきました。
イタリア男らしいお洒落で陽気な男性達と、セクシーで大人の匂いを醸し出す女性達。
ランチと共になんと、ワインが4本運ばれ皆飲み始めました。
とても楽しそうなランチの風景です。
仕事の時間が迫ってきたためか一人去り二人去りと、ランチの宴会が終わったのは一時間過ぎでした。
私はその楽しそうな光景を見ながら、イタリア語はまったく分からないので、どんなおしゃべりをみんなしているのかを想像し、ワインを飲みながら観察していました。
???彼等は午後はお酒が入っての仕事なんですよね。
ユーロ圏での経済破綻はギリシャに継ぎ、イタリアが取りざたされています。
その報道を聞くたびにあの日の楽しいランチの光景を思い出してしまいます。
アリとキリギリス。
私はキリギリスの人生が好きですね・・・だからヨーロッパが好きなのかな。

三詠子さんの独り言

還暦を過ぎて、次世代に自分の人生観を含め、何を伝えて来たのかと考えることが多々あります。

ファッションを生業にして29年目、常にアジィのファッションを身に着ける事で大人であると言う自負を持つ服を提案してきました。
子供の頃は、憧れを持つ大人が周りに沢山いました。
昭和の高度成長期の時代です。
大人たちは生きることも楽しむことも一生懸命でした。
子供と大人との境界線がはっきりしていました。
そんな時代に育った私の中には、ファッション業界程この境界線は強いと感じてました。

美しい物には手間や時間がかかります。
感性豊かな物は長い歴史が必要です。
デザインされ作り出された作品を身に着ける事は大人の特権です。
アジィが選び抜いた大人の女性の為の服。
次世代を担う若者に憧れや希望を持たせる事が出来るアジィでありたいと願ってお店を続けてきましたが、ここ10年ファストファッションの影響か、インポートセレクトショップが消えて行きました。
アジィも、今まで作り上げていたクオリティを落とさずに続けていく事が大きな課題になりました。

「カフェ・バールアジィ」を立ち上げ、新たなアジィとして出発しましたが、この大震災です。
今日本が抱える問題が、アジィにも大きくのしかかる事になりました。
次世代にアジィはいったい何を伝えたら良いのか・・・。
嬉しい出来事がありました。
アジィのお客様のお嬢さんが、ファッション業界で仕事をする為のパターンの勉強に、9月1日パリへ旅立ちました。
彼女は桐朋女子出身で、デザイナーをめざし、専門学校を出て業界に就職して4年。
今の日本のファッション業界においての自分の限界に、パターンを勉強しようとパリへの留学を決意したようです。

桐朋学園の通学道路にあるアジィが、彼女の生き方に影響出来たのではないかと、私なりに自負してます・・・だったら良いな~~~!
来年のパリ行きに又一つ目的が出来ました。
彼女に会います。待っててね!

三詠子さんの独り言

イタリア映画祭が4月29日から5月4日まで、有楽町朝日ホールで行われていました。
アジィの休みと重なった2日(火)イタリアのファッションを見たくて出かけてきました。
女性監督ロベルタ・トッレの「キスを叶えて」を観ました。
奇跡を起こしたと聖人に祭り上げられた少女を取り巻く、家族や周りの人々の喜劇です。
女性の監督なので、映画の中のファッションに期待をしたのですが、やはりイタリア。
女の子からおばあさんまで、みんな胸を大きく開けておんなおんなのファッションです。
主人公の母親はつねに肉感的な身体を強調させるピタピタのワンピースを着ています。
やはりイタリア映画においては、男が男であって、女が女である事が大前提のように表現されている印象があります。
今回の映画も、永い夫婦生活においても常に男と女であり、主人公の女の部分を、胸元が大きく開いたぴたぴたのドレスを着せての表現の仕方は、野暮ったさを感じさせられました。
映画としては、私の若かりし頃のヴィスコンティ監督やフェリーニ監督の映画を夢中になって観ていた作品の印象が強い為かあまり面白くなかったです。
服装によって女を表現する施行があまりにも単純で、これもイタリア映画がなす技なのかなと、すこし失望しました。
女性の監督であればもう少し女性の表現を単純化させてはいけないのではないかなと思うイタリア映画祭の感想でした。